花束

《花束》は、札幌冬季オリンピック開催にあたり真駒内主会場脇の札幌支笏湖線と国道230号線を結ぶ「都市計画街路水源地通」に新設した五輪大橋・小橋を飾る彫刻として1970年に札幌市より依頼を受け翌年10月に設置、除幕されました。五輪大橋・小橋は、オリンピック開催時に大会役員や選手が行進する橋であるため、大会にふさわしい橋であるとともにオリンピック開催を永く語り継がれるように、彫刻を設置することとなりました。

制作の依頼を受けたのは、北海道にゆかりの作家4人でした。本郷のほかに、山内壮夫の「飛翔」一対、本田明二の「栄光」一対、佐藤忠良の「雪娘」「えぞ鹿」の作品が設置されました。本郷は、先ず簡潔な形を考えました。自然界に存在しない直線的な形は、自然のなかで存在を主張する強さがあります。そのため《花束》は、頭部を半球体、胴体にマントを着せ三角錐、足をできるだけ円筒形にしました。本郷は、人物像であるとともに構築物としての強さを《花束》に求めたのです。

もう一つ本郷は、橋の両側に一対の作品を置くことに工夫を凝らしました。左右にはなれた作品に統一感をもたせるために、マントを同じ方向に傾斜させ、風のない日でも豊平川の川面を渡る風をマントの裾の動きで感じられるようにしたのです。

本郷は、形ばかりではなく色にもこだわりました。自然の中にあっても存在感を失しないように、ブロンズの上に純金箔を三度重ねて金色に輝かせました。金は、冬の雪の白や、夏の木々の緑にあっても際立つ色です。本郷の、「彫刻はいつでも、何処でも“存在の美”を主張する。そして環境や自然と対立することによって、新しい調和を導き出す」という考えが貫かれたのが、《花束》でした。

遠目でも作品を確認できる《花束》は、オリンピックが終わった後も、少女が花束を持って訪れる人を温かく迎えてくれているかのような温かな雰囲気を醸し出しています。札幌冬季オリンピック開催を永く人々の記憶のとどめ、しかも人々に愛される芸術的に優れた野外彫刻を理想とした本郷らしい作品です。